裏話その壱
「余計な心配?」
池田学院には、生徒が使用できる貸し出し用の筆記用具や定規、コンパスなどが数セット用意してある。
「先生、ペンシル借ります。」
「消しゴム忘れました。」
「コンパス貸してください。」
貸し出し用の文具たちは毎日大活躍で、授業の妨げになる道具忘れを見事にカバーしてくれる。もし、これがなかったら、生徒間で道具の貸し借りをする人や、借りる相手がいなくて困る人、定規なしで直線を引こうとする人など、直接の勉強以外で大切な学習時間をどれほど浪費してしまうことになるか、学校などで経験していることだろう。そしてもうひとつ、経験的にわかっていることは、貸し出し文具を借りる人は、いつもだいたい決まった人であることだ。ひどい場合には、毎日同じ道具を借りている人もいるように感じる。
ジュクチョは思う。
「道具がないことにより、大切な授業が停滞するようなことにならなくて良かった、良かった。」
でも、もう一人、余計な心配が好きなジュクチョがいて、こんなことを考えている。
「この子たちは、学校でも、自宅でも、道具がなくて困ることが多いのではないかしら?」
「まさか、テストのときなどにも、道具がなくて困っているのでは?」
ジュクチョの余計な心配は、さらに膨らんでいく。
「文具を貸し出して、忘れ物をカバーすることで満足するのではなく、忘れ物そのものをなくすような教育を塾でも行うべきではないだろうか?」
「勉強に対する基本的な姿勢を改善することが、成績アップのために必要であると説くべきだろう?」
しかし、また一人、別のところから3人目のジュクチョがやってきて言う。
「基本的な姿勢の改善だって・・・そんな、大それたことがお前にできるのかい?」
「そもそも、生徒や保護者がそこまで干渉されていやな気持ちになるだけでは?」
「価値観を押し付けるのは良くないでしょ?」